父の手術が終わり執刀医から説明を受けた。
父の手術は脳の周りに溜まった髄液を取り除く手術だったが、取り除いた髄液に血液が混ざっていたそうで、執刀医からは硬膜下血腫だったと説明された。執刀した脳神経外科の医者は非常にクールで、どことなくブラックジャックのように感じられた。
父は入院する一週間前に僕と温泉に出掛け、自分で体を洗い風呂に入れるほど元気だったが、その3日ほど後に庭で転んで頭を打ち、その影響での脳を包む硬膜と脳の表面の間に血液が溜まったことが考えられるという。
手術前のMRIの検査で頭の断面図を見ても脳に溜まった液体が髄液か、それとも血液なのか、判断することはできないが主治医は髄液と考えていた。僕は高齢の父に手術を受けさせることに多少抵抗はあったが、結局、手術後に硬膜下血種だったと判明したので、手術を受けることがベストな選択だった。
手術前、耳の遠い父は主治医から手術の説明を受けている時に上手く内容を聞き取れなかったようで、主治医とのカンファレンスの後、僕が大きな声で父に説明した。話を理解した父は手術を受けることに否定的だった。
「何で手術ばせにゃならんのか?お前ら他人事やな~」
手術当日も父は納得できない顔で、不安そうに手術室に入って行った。
手術が終わり僕は父の手を握り、
「よく頑張ったな。無事に終わったよ!」
そう父の耳元で話しかけると、麻酔で意識が朦朧とする父は小さく頷いた。きっと父は朦朧とする頭の中で、手術を受けたことに納得していないだろう。
手術後、執刀医から今回は左脳側の髄液を取り除いたので、ひょっとすると右脳に圧が掛り障害の出る恐れがあるので、場合によっては右脳側も手術し溜まった髄液を取り除かなければならないかもしれないと言った。
これから回復に向かう父に僕はどう話そうか悩んでいる、きっと父は次の手術は猛烈に反対するだろう。
「また手術?いい加減にそっとしてくれ。もう手術は嫌だ!」
僕は気が重い。
written by マックス
先日、相談があると後輩からランチに誘われた。彼の相談は今の給料ではこの先が不安でどうすればよいだろうか、というものだった。とりあえず、転職や独立も含め考えてみるように彼にアドバイスした。また少額でできる投資などもあるので、今のうちから少額でよいので活用することも薦めた。
「生活に余裕はないやろうけど、iDeCoやNISAなども検討したらどうや?」
僕が彼にそう言うと、
「iDeCo、NISA…?一体それは何ですか?」
僕は呆気にとられ、日々の暮らしの中で新聞や本を読むことを彼に薦めた。先日も僕の妹夫婦に同じアドバイスをしたが、彼らもiDeCoやNISAのことを知らなかった。
今の日本は夫婦共働きの家庭が多く、夫婦共に日々の仕事と家事に忙殺されているようで、それ以外のことを考える余裕は無く、投資の一般常識ですら知らない。これから少子高齢化で社会保障費が膨れ上がり、年金や医療費が大きく見直されることが予想されるのに、多くの人が目先の生活が大変で将来のことを考えていないようだ。
今月に入り、僕は将来の自分の生活費を試算してみたが、意外に費用が嵩むので驚いた。当然、年金などに頼らいないことを前提に試算したので、今のうちから手を打っておかなければ将来、貧乏老人になってしまう。
2040年に高齢者の人口がピークを迎え、周りを見渡すと3人に1人が高齢者ということになる。草野球チームに例えると、外野の3人は高齢者ということになる。(内野でもいいのだが)長打を打たれると外野を守る高齢者は走ってボールに追いつけないだろう。
またママさんバレーでも3人に1人が高齢者ということになる。曲がった背中でアタックやブロックができるのだろうか。
政府は「未病」などを謳い健康長寿を推進しているが、あまり長生きすることも問題があるように思える。いずれにしても年金などに頼ることなく自分の人生を生き抜く力を早いうちから養わなければならない。
僕はランチの帰りに後輩に聞いた。
「お前、定年後どうやって生活するとや?」
「セブン、ローソン、ファミマ、コンビニ3軒で掛け持ちバイトでしょうね!」
彼は笑いながらこう返してきたので、僕は、
「その頃はコンビニも無人のレジになってバイトは無くなるぜ」
「ハハハ」
彼は笑っていた。
written by モンコ
親父が入院し毎週のように週末は見舞いに出掛けている。先日、親父の今後の治療方針について主治医から話があった。親父はパーキンソン病を患っており、また脳の周りに通常の人の倍の水が溜まっているそうだ。
人間の脳は髄液で覆われており脳は髄液の中に浮いているような状態で、髄液は脳を守るために頭の中でクッションのような役割を果たしているという。またその髄液は一定の期間で新しい髄液と全て入れ替わり、古い髄液はリンパなどを経由し体から尿などと一緒に排出されるそうだ。僕は人間の体の機能にすっかり驚いてしまった。
親父の脳の周りを覆う髄液は上手く排出されていないようで、頭の中で髄液は溜まり、その溜まった髄液が脳を圧迫し脳にダメージを与えているそうだ。その影響で親父の認知力は低下し、体を動かすことが困難になっているという。
そこで主治医は頭蓋骨に穴を開け、溜まった髄液を排出する手術を薦めた。その場に親父も同席していたが、親父は一言も喋らなかった。親父の年齢から手術による体へのダメージを考えると、躊躇してしまう。
病室に戻り、僕は親父に手術の件を確認した。
「親父、手術するや?」
僕がそう聞くと親父は、
「頭にドリルで穴ば開けるて簡単に言うばってん、間違えて脳にグサッと刺さったらどうするとや?」
親父はボソッと言った。
「頭に穴を開ける手術は毎週のこの病院で行われよるらしいけん、先生は慣れとうよ。それに麻酔は全身麻酔やないし、2時間くらいの手術やけん、そげん大変な手術じゃないばい」
僕がそう言うと、親父は黙ったまま病室から見える外の景色を眺めていた。
そこで親父の誕生日も近いので、次の週末に親父を一旦自宅に連れて帰り旨いものでも食べさせ、息抜きをさせようとお袋に話した。お袋は快諾し直ぐに主治医に外出許可をもらいに行った。
「親父、週末は家に帰って寿司でも食おうや!」
僕がそう親父に言うと、親父は嬉しそうに頷いた。
僕の年齢になると親の介護などで何かと時間が制約されてしまう。今のところお袋は元気なので助かっているが、これから両親の命が尽きるまで週末は更に大変になるだろう。それでも親には長生きはしてもらいたい。
written by マックス