「墓は親父が建てたんで、無宗教の私が墓の管理費を払うのはおかしいでしょ!」
親父は無宗教と言い張り、祖父母の建てた墓のある寺の年間管理料の支払いを数年前から断っていた。困った住職は親父の弟で僕の叔父に連絡を取り、年間管理費の支払いの催促をしたそうだ。親父と叔父の間で以前から管理費の取り決めがあったようで、親父に年間管理料を支払うよう話してくれと叔父から僕に連絡があった。しかし今は入院して意識もままならない親父が理解するはずもなく、仕方なくお袋を連れて寺の住職に会いに出掛け、延滞していた墓の年間管理料を支払った。そして住職と今後のことについて話し合った。
「うちの母はクリスチャンなので、こちらのお墓には入りません。父は無宗教ですが、夫婦は同じ場所に埋葬されるべきだと言うので、母と一緒に教会の納骨堂に入るつもりです」
僕が住職にそう伝えると、
「それじゃ、このお墓はあなたが守っていきんしゃると?」
「僕も無宗教なので将来は亡くなった犬と一緒に樹木葬にしようかと考えています」
それを聞いて住職は少し顔が曇った。
「それじゃ~、墓はどうするかね~。実はうちにも納骨堂がありますけん、お爺ちゃんとお婆ちゃんはそこに納めて永代供養ば考えたら、どうでっしゃろ?」
「こちらに永代供養をお願いしたら費用はどのくらい掛かるんですか?」
住職は納骨堂の料金表を持ってきた。
「一人分で20万やけん、お爺ちゃんとお婆ちゃんの二人やけん40万円ですな」
「へ~、結構掛かるんですね?」
「ば、ばってん、生前お爺ちゃんには世話になっとったけん、値引きって言うのも変やけど二人で30万でよかですよ。今の時代は墓に入るより納骨堂に入って永代供養する方が多くて、葬儀や墓も簡素化する時代で寺も大変なんよ」
「寺も値引きをするんですね…」
苦笑いをする住職に墓仕舞いをするための墓の撤去費用の見積もりお願いし、納骨堂の件は検討する旨伝え寺を出た。
その後、再び寺を訪ね住職に祖父母のお骨を納骨堂に移し永代供養してもらうことをお願いし、住職から墓仕舞いするため墓を撤去費用の見積もりを見せてもらうと、結構な金額だったので、もう少し何とかならないかと相談すると、価格は若干下がった。寺の価格はあって無いようなものだと僕は思った。
少子化が進み生活様式が多様化する日本では、お寺の運営も随分影響を受けているようだ。
written by 彦之丞
万物を創造した神は、地球で全ての生物が豊かに共存できるか長い年月をかけ、テストをしているのかもしれない。
この地球の長い歴史の中で人間は幾度となく殺戮を繰り返し、さらに世界中を巻き込んだ大きな戦争を2度も引き起こした。そのたびに多くの命が失われ悲しみと苦しみを経験したにも関わらず、殺人兵器は無くなるどころか研究は進み、未だ多くの国が核兵器を保有し内戦やテロは繰り返されている。
また利益や利便性を追求する人間は平気で自然を破壊し、地球は大きなダメージを受け生態系に悪影響を与え野生動物の中には絶滅したものまでいる。その傲慢な人間の振舞いに神は怒り人間に罰を与えるために伝染病を発生させ、世界中でパンデミックを引き起こしているのかもしれない。
近い将来AIやロボットなど新たな技術が世界中に普及し自動車は自動運転になり、家電や家まで全ての物がネットに繋がるIoTの時代が訪れ、人間の思考を先回りしたAIによるオートメーション化が実現するだろう。
日本を代表する大企業トヨタ自動車も自動車の生産だけでは将来に大きな不安を感じ、生き残りを懸けて富士山の麓に「Toyota Woven City」と名付けた街を開発した。この街は自動車のように高速なモビリティ用の道と速度の遅いモビリティ用の道があり、さらに公園にあるような遊歩道まで準備され、この3つの道で安全な未来に向けた実証実験や研究を行うそうだ。またこの街ではインフラや物流などのネットワークは地下に設置され、全てのものが繋がるIoTのモデルシティを目指していると言う。
夢のあるSF映画のような素敵な未来を想像するとワクワクするが、素敵な未来ではなく人類が滅亡するSF映画も多くある。同じ失敗を繰り返す愚かな人間がAIやロボットなどをしっかり制御し、果たして平和で豊かに暮らすことができるのだろうか。人間は利益と利便性を追求する前に、地球で多くの生物と共存している住人として倫理観や正しい思考を身に付けなければならない。そうしなければ近い将来3度目の世界大戦を起こしてしまうかもしれない。
その時、神は激怒しテストに失敗したことを悟り人間を創ったことを後悔するだろう。そして全ての人間をこの地球上から消し去ってしまうかもしれない。
written by ベイダ―
先週、朝の準備のため洗面台の左にある引き出しを開けようと少し屈んだ瞬間、腰にギクッとインパクトを感じた。僕は直ぐにぎっくり腰だと直感した。すると10分もしないうちに腰が痛くなり、靴下や靴を履くことすらできなくなり、自宅にあったコルセットを腰に巻き仕事に出掛けた。毎日の日課で通勤路沿いにある神社で手を合わせるのだが、この日は神社で一礼すらできない状態だった。出社後、お得意先と打ち合わせがあったので、腰を抑えながら妙な歩き方で出掛け、打ち合わせが終わると直ぐに馴染み整骨院に駆け込んだ。
「こんにち!今日は随分曇った顔をしていますね。どうしました?」
整骨院の先生は僕を見るなりこう言った。
「実は今朝、洗面台の引き出しを開けようと少し屈んだら、腰がずれたようで痛くて歩くこともままならないんです」
「あらら、それはぎっくり腰ですな!」
先生の指示で僕はベッドでうつ伏せになると、先生は僕の腰を触りながらこう言う。
「左の腰の骨がずれて腫れていますね。以前から少し悪かったところですね。きっと疲労がここに溜まって、少し屈んだことで引き金を引いたのでしょう。今から帰って安静にできないですか?」
「仕事がありますから、そりゃ無理です」
「そうですか。本当は安静が一番なのですが。それではずれた腰の骨を整えましょう。さぁ、リラックスして―」
先生はそう言い僕の腰を2度ゆっくりとひねった。
『ゴキッ!ゴキッ!』
その後、先生は腰にテーピングをし、湿布を張ってくれた。
「2、3日は通院した方がいいですよ!そして今日は風呂に入って温めることは絶対にNGです。もし酷い痛みがあったらアイシングをして下さい!」
仕事が終わり自宅に戻ると、愛犬Q次郎が大喜びで僕にまとわりついて来る。
「お前もダックスフンドで胴が長いけん、そげん激しく動きまわりよったら腰ば痛めてヘルニアになるぞ!お願いやけん、今日はそっとしておいて!」
そう言って、Q次郎を冷たくあしらった。
一週間ほどすると靴下を履けるまで腰は回復し、普段通り歩くことができるようになった。僕はぎっくり腰になったことで、腰が曲がり歩くことが随分遅くなった高齢のお袋の気持ちがよくわかった。年齢を重ねるとはこういうことなんだ…。
written by モンコ