桜が満開になり、外に出掛けるとつい顔を上げてゆっくり歩いてしまう。いよいよ4月に入り入社式や入学式が行われ、多くの若者たちが新生活を始め、また多くの人が新しいことにチャレンジする季節だ。
昨年の4月より体が訛らないようにと、スポーツクラブに入会し週3日のトレーニングを始めて1年になる。スポーツクラブに通い始めた頃は、新鮮で勢いもあり自分を追い込みながらトレーニングをしていたが、半年ほど過ぎると倦怠期を迎えトレーニングに苦痛を感じ、トレーニングを行う目的を自問自答していた。しかし今では倦怠期を乗り越えトレーニングが自分の日課になり以前より苦痛を感じなくなった。
トレーニングを始める前は筋肉も落ちお腹には脂肪が付きポッコリとしていたが、今ではお腹は細くなりベルトの穴を以前より締めなければズボンがずり落ちてしまう。また脚や腕も一回り大きくなり胸もボリュームが出てきた。
先月、愛犬の毛をベランダでカットしている時に腰を痛め馴染みの整骨院で治療を受け、先生からトレーニングを2週間控えるように言われた。ようやく腰の痛みも治り再びスポーツクラブに通い始めたが、今まで持ち上げていたトレーニングの負荷は随分重く感じ、翌日は全身筋肉痛で疲れてしまった。筋肉を作るには長い時間が掛るが、一旦、トレーニングを止めると筋肉の落ちる速度が速いことに僕は驚いた。
「上り一日下り一時」この言葉は上るには一日掛かるが、下るときは僅かな時間しか掛からないと意味で、物事を作り上げるには多くの時間と労力を要するが、壊すのは容易いという例えだ。これはトレーニングだけではなく全てのことに当てはまる。友情、恋愛、勉強、仕事、投資…。同じ類の言葉に「ローマは一日にしてならず」という諺がある。人類史上最大で最強の繁栄を遂げたローマ帝国は築くまでに約700年もの歳月を費やし、決して短期間で完成したものではない。
新年度を迎え、多くの人が決意を固め新しいことにチャレンジするが、何事も継続しないと身に付かない。そして継続するためにはしっかりと目標を持ち、強い意志で臨み、チャレンジする中で多くの発見や楽しみを見出せないと、長く続けることはできない。
「よし。また新たしいことにチャレンジしよう!」
数年前、僕はロシアのサハリンに数人の仲間と旅行したことがある。成田空港からサハリンの州都ユジノサハリンスクの空港まで直行便で2時間半ほど掛かるが、ロシアの航空会社の飛行機は古く、しかも僕の座席のシートベルトは壊れており不安になった。(マジかよ…)あいにく搭乗客が少なかったので僕は他のシートに移った。離陸すると直ぐに大柄で不愛想な女性の客室乗務員が機内食を配り始めた。機内食はサンドイッチとナッツがトレーに置かれた簡単なものだった…。
無事にユジノサハリン空港に着くと、驚いたことに凍った滑走路で降ろされた。(マジかよ…)吹雪の中を空港の到着口まで歩き、入国手続きを終えると古いマイクロバスでホテルに向かった。
ホテルはまるでロッジのようで、決してホテルと呼べるような建物ではなかった。ホテルに到着した時間が遅かったのでホテルのレストランは既に閉まっており、仕方なく簡単な軽食とウォッカをフロントで注文し仲間と部屋で一杯やることに。すると仲間の一人が雪見酒をしようと言い出し、ウォッカを持ってホテルの庭に出た。
外は氷の世界で、気温は-12℃。建物の軒には沢山のツララがぶら下がっており、あまりの寒さで長時間外にいることはできず、部屋に戻り暖かいシャワーを浴びて飲み直すことなったが、仲間の部屋のシャワーから温水は出なかった。(マジかよ…)
翌日、古いマイクロバスでサハリン観光を行った。観光の途中、マイクロバスは故障してしまい走行不能となり、他のマイクロバスに乗り換えた。(マジかよ…)サハリンでは日本の中古車が多く走っており、日本の郵便局や消防署が払い下げた車まで走っている。
サハリン郊外は資源開発施設が多く、市内には大きなショッピングモールがひとつあり、ショッピングモールで多くのロシア人を見た。皆、顔立ちが良く美男美女だが、男性の多くは頭がハゲていた。ロシア人はハゲることに全く抵抗は無いそうだ。
またサハリン市内は以前、日本の領土だったので日本統治時代の歴史的建造物が今も残っており、日本統治時代に建設された樺太庁舎(今は博物館)や製紙工場、それに神社と鳥居も至る所に残っており何とも複雑な気持ちになった。
そして海に出掛けると、驚いたことに海は見渡す限り全て凍っており、凍った海の氷の厚さは2メートルにもなるそうだ。沖には凍った海で航行不能になった難破船が見えた。
その後、レストランでロシアの料理を食べたが、ロシア料理は美味しく日本人の口には良く合う。中でもペリメニと呼ばれるロシアの水餃子とピロシキは美味しくて追加注文した。
旅行を終え、日本へ戻るためユジノサハリン空港に向かった。空港では荷物検査場に検疫探知犬の老いたシェパードが注意深く乗客の荷物の匂いを嗅いでいる。そのシェパードは仲間のカバンに強く反応し吠え始めたので、犬の脇にいた検査官が仲間にカバンを開けるよう厳しい顔で指示した。仲間がカバンを開けると、シェパードはカバンの中に顔を突っ込みビニール袋を咥える。そのビニール袋を検査官が取り上げ中を覗くと、土産に買った沢山のピロシキが入っていた。するとビニール袋にシェパードは噛みつき、中に入っていたピロシキは床に落ちてしまい、シェパードはあっという間に全てのピロシキを平らげてしまった。(マジかよ…)
僕が見たロシアは氷の世界で、飛行機や自動車など全ての物が古く大半は壊れかけており、空港の職員や検疫探知犬は全く訓練されていなかった。ロシア人は美男美女が多いが、皆、不愛想で男性はハゲていた。しかしロシア料理はとにかく美味しかった。
こんなロシアは果たしてウクライナに勝てるのだろうか…?
小国のウクライナはアメリカやヨーロッパ西側諸国から軍事支援を受け、大国ロシアに降伏することなく徹底抗戦している。ゼレンスキー大統領はウクライナ国民に団結を呼びかけ、世界にウクライナの惨状を伝え援助を求めている。またロシアのプーチン大統領にはロシア語で「我々の土地から出て行け!その気がないなら交渉の席に着け!」と、即時撤退か直接交渉を要求している。
経済力、軍事力ともにロシアに圧倒的に劣るウクライナのゼレンスキー大統領は亡命することなく、命を懸けてロシアに立ち向かい、世界に勇気と感動を広げている。
ところで「戦争広告代理店」という本がある。本書は1992年にボスニアとセルビアとの間で起きたボスニア紛争の舞台裏で繰り広げられた情報戦を紹介したドキュメンタリーだ。戦力的に優勢なセルビアに対抗するためボスニアはアメリカのPR会社に広報業務を依頼し、情報戦を展開していく。
業務を担当したPR会社はセルビアによる他民族殺戮をアピールし、「民族浄化」と言うキャッチコピーを使いアメリカの政界や多くの団体にキャンペーンを行い、米国世論ひいては国際世論にセルビアに「悪」のレッテルを貼ることに成功する。そして世界中のメディアはセルビアを「ナチスの再来」と報道し、セルビアは世界からバッシングを受け国連から追放され、終にはNATOに空爆され敗北してしまう。
本書は巧みな情報戦によって戦争で有利に戦えることを証明している。まさに「ペンは剣より強し」だ。
ボスニア紛争の頃は世界中で新聞やテレビが主流メディアだったが、今の時代はインターネットの普及によりSNSを利用しライブで世界に情報を発信することができる。ウクライナのゼレンスキー大統領は巧みにSNSを利用し、自ら世界にウクライナの惨状とロシアに決して屈しない姿勢をアピールすることで世界中から共感を得ている。逆にロシアはウクライナへの侵攻を自国のプロパガンダに利用し、世界には嘘の情報やフェイクニュースを発信し世界中からバッシングを受けている。
今回の戦争もボスニア紛争のように情報戦によってウクライナに勝利をもたらすかもしれない。世界中が固唾を呑んで見守っている。