親父は午前10時に息を引き取り、事前に相談していた教会と葬儀社に直ぐに連絡を入れた。葬儀社の方から親父の身長を唐突に聞かれ不思議に思い尋ねると、親父の棺桶のサイズの確認だった。午前11時半に親父の遺体を運ぶ搬送車が病院に到着し、自宅から車で1時間ほどの教会に親父の遺体を移した。僕とお袋も通夜と葬儀の打ち合わせのため直ぐに教会に向かった。教会に向かう車の中でお袋が言った。
「明日、お父さんは天国に旅立つけん、今夜はお父さんの傍にいてやらんといかんね」
午後1時に教会に到着し牧師さんと葬儀社の方と打ち合わせを始めた。通夜と葬儀の準備は慌しくて大変だと聞いていたが、当事者として初めて葬儀に向き合うと、その大変さには驚いた。通夜から火葬までのスケジュール、親父の衣装、遺影、祭壇の花、火葬場への移動、その後の食事など、決めることは多く、牧師さんと葬儀社の方との打ち合わせは2時間に及んだ。また牧師さんから葬儀で親父を紹介するための略歴を纏めて欲しいと言われ、慌てて略歴を纏めた。やっと通夜と葬儀の手筈が整い牧師さんに今晩のことを相談した。
親父の遺体は通夜(キリスト教では前夜式)の後、教会で一晩安置してもらうので家族は親父の傍で最後の夜を過ごしたいと牧師さんに伝えると、牧師さんは快諾してくれたうえで、こう言った。
「お父さんのご遺体の傍で一晩ご一緒に過ごされても構いませんが、それが何か意味があるんですか?」
「えっ!通夜はあの世に行く前日で、一晩中、遺体の傍で過ごすんじゃないんですか!?」
「そうされる方もいらっしゃいますが、お父さんはもう天国に行ってますよ。正確にはお父さんの魂は神の元に行ってます」
その時、僕の頭の中でアニメ「フランダースの犬」のラストのシーンが浮かんだ。教会で少年ネロと愛犬パトラッシュが酷く疲れ抱き合って死んでいくシーンだ。ネロとパトラッシュは天使に導かれて天に昇って行く。
「そこにある遺体はお父さんの亡き骸です。亡くなると魂は直ぐに神の元に旅立ちますから、お通夜で一晩中、亡くなった方の傍にいる必要はありません。昔は通夜と葬儀を自宅ですることが多く遠方からの親戚など集まるので、夜通し思い出話などをして過ごしていました。それがいつの間にか通夜の仕来りのようになったんでしょう」
牧師さんの言葉で頭の中が整理できた僕はお袋に尋ねた。
「お袋、牧師さんが仰る通り、親父はもう天国に行っとるばい。今晩どうするね?」
「確かにそうやね。お父さんはもう天国に行っとるけんここにはおらんね(笑)」
18時から教会で家族だけの通夜(前夜式)を行った後、夕食を外で取り自宅に戻った。その晩は夜更けまでお袋と親父の思い出話で盛り上がった。時計の針を見ると深夜3時を回っていた。
「お袋、もう遅いけんそろそろ寝ようか。明日は親父の葬式やけん。寝坊できんよ!」
ゴールデンウィークが終わり日常生活に戻った5月8日の朝、朝食を済ませベランダでコーヒーを飲んでいると電話が鳴った。電話は親父が入院している病院からだった。
「もしもし、お父さんの容態が良くないので急いでこちらにお越しください」
「わかりました。急いで向かいます」
まだ眠っているお袋を起こし、親父の入院する病院へ急いだ。
前日、お袋と親父の見舞いに出掛けた際、親父は反応が無く顎を使って下顎呼吸をしていたので、“そう長くないだろう”とお袋が言った矢先のことだった。
親父の部屋に入ると、そこには院長先生と二人の看護婦さんが立っており、僕等に気付くと院長先生はゆっくりと首を横に振った。
「お父さんは先ほど亡くなりました。間に合わなくてごめんなさい」
親父が息を引き取って10分ほど経過していたが、親父の聴力と脳もまだ活動していることを信じ、親父の耳元で声を掛けた。
「親父!本当にありがとう!ゆっくり休んでくれ!」
親父の命は風前の灯火だったので覚悟はできていたが、お袋が親父の耳元で涙を流しながら声を掛ける姿に涙が滲んだ。
「お父さん…お父さん…今までよく頑張ったね…。お父さん…今まで本当にありがとう…」
親父は後年、パーキンソン病を発症し誤嚥により肺炎を繰り返し、3年半の間、口から食事を摂ることができず経管栄養で入院生活を送った。今年の3月末に再び肺炎を起こし最期は心不全で息を引き取った。親父が食事や水分を口から摂取できず経管栄養で生き長らえることに家族の間で議論は尽きなかったが、親父はお袋と次の誕生日までは生きると約束していたようで、お袋は今年の誕生日までは親父を生かしたいと譲らなかった。親父の誕生日は5月29日だったが、誕生日までもう少しのところで親父は力尽きた。
葬儀は親父の希望により家族と親父の兄弟のみの質素なもので、クリスチャンのお袋がお世話になっている教会で通夜と葬儀を行った。葬儀の日は雲ひとつない五月晴れで、親父の棺桶には沢山の花が広げられその花の香りが心地良く香った。
翌日、親父の遺品を片付けていると僕と妹宛てに書かれた遺書を見つけた。遺書の中にこう書かれていた。“お前たちは俺の宝物だ。いつまでも兄弟仲良くするように”
「親父、ありがとう。天国でゆっくりと旨い酒を飲んでくれ!」
いよいよ明日からゴールデンウィークだ。3年ぶりに新型コロナウィルスの規制は解除され、今年のゴールデンウィークは多くの人が旅行やレジャーに出掛け道路は渋滞するだろう。この時期は休暇の日だけ車を運転するホリデードライバーが増え、交通事故も増加する。2年前のゴールデンウィーク、自宅近所の道路で猛スピードの車に中学生が跳ねられ、事故現場に駆け付けた僕はその中学生の心臓マッサージを行った経験がある。くれぐれも車の運転は気を付けて欲しい。
ところで100年に1度の移動革命とも言われる「空飛ぶクルマ」は、世界で開発競争が加速し、すでに日本やアメリカ、ドイツ、イギリスのメーカーが日本での実用化に向け、車体の型式証明を得ようと国土交通省に申請しているそうだ。日本では「空飛ぶクルマ」は2025年の大阪万博での実用化を目標に、先日、大阪城公園でテストフライトが行われた。
そして「空飛ぶクルマ」は早くも予約販売がスタートした。この「空飛ぶクルマ」は2人乗りで航続距離は最大約10km、垂直離着陸の機能により滑走路や舗装路などが不要で、インフラ設備に左右されない自由な移動を実現するという。この「空飛ぶクルマ」の価格は驚くことに2億円で、運航や整備それに格納庫の費用は別途掛かるそうだ。航続距離が10㎞と短いのに一体誰が買うのだろうか…。
将来、「空飛ぶクルマ」は飛行機と比べると部品が少なく、大量生産することで長期的には製造や整備に掛かるコストを抑えることができ、自動運転によってパイロットが必要なくなり運航費用も抑えられるそうだ。
一般社団法人日本自動車工業会の発表によると、世界の車保有台数は2020年に約15億3,000万台で、人口1,000人当たり197台、5.1人に1台普及している。もしこの車の台数が全て「空飛ぶクルマ」に代われば、空は「空飛ぶクルマ」で埋め尽くされる。地上を走る車とは異なり「空飛ぶクルマ」が空中で事故を起こせば、地上の建物も巻き込んだ大きな事故に繋がるので、安全性はもちろん法整備も慎重に行わなければならない。
しかしなぜ「空飛ぶクルマ」と呼ぶのだろうか?アニメ「ドラえもん」の中でタケコプターが描かれているので「○○コプター」で良いのでは?先週のブログでAIのことを書いたが、まるでSF映画のような未来がすぐそこまで迫っている。
それでは皆さん車の運転にはくれぐれも気を付けて素敵なゴールデンウィークを!
来週は祝日でブログはお休み♪