先週あたりから気候が安定し、晴れの日が続いているのでベランダで過ごす時間が増えた。朝、起きるとベランダでコーヒーを飲み、夕方、風呂から上がると枝豆を食べながら冷えたビールを飲む。この時期のベランダは何とも心地良い。もうすぐ夏か…、今年も暑いだろうな~、嫌いな夏がまたやって来る。
ところで心臓病で入院していたお袋は、退院時に主治医から心臓に良くないので減塩するようにきつく言われ、家では塩分を控えるようになった。毎朝飲む味噌汁はもちろん、夕食時に食べる刺身にも醬油を余りつけなくなり、塩辛い物が大好きなお袋はどこか物足りないようだ。そんなお袋にとって有難い商品が6月に販売される。
今週、スプーンの先端から微弱な電流を流すことで、食品の塩味を約1.5倍に増強するスプーンが販売される。このスプーンを開発したキリンホールディングスは「減塩食は薄味で物足りない」、「減塩の大切さは分かるが続けにくい」といった声に着目し、約5年の開発期間を経て製品化に至ったという。
このスプーンは「エレキソルトスプーン」と名付けられ、サイズは約250mm(幅)×25mm(高さ)×38mm(奥行き)で重さは約60g、リチウム電池で作動する。食事の際にスプーンの柄にあるスイッチで電源を入れ、4段階の中から好みの塩味の強度を選択し、塩味の強度を変更することができる。スプーンの柄と先端には電極が組み込まれており、スプーンの柄を持ちスプーンの先端に食べ物をのせて口に運ぶと、微弱の電流が口の中で流れ塩味が増したように感じるそうだ。食品中のナトリウムイオンの動きをコントロールすることで食品の塩分量を変えることなく、疑似的に「しょっぱさ」が増したように感じさせる面白いスプーンだ。子供の頃に電池の電極を舌に付けたことがあるが、妙な味でかすかに電気が流れた思い出がある。
「へ~、このスプーンを使えば減塩でも塩気が強く感じるらしいぜ!お袋、このスプーンを買ってやろうか?」
「いくらするとね?」
「2万円ぐらいやね」
「2万円もするとね。スプーンね…寿司やら天ぷらばスプーンで食べるとね?そりゃ~食べにくいやろ。箸はないとね?」
「今はないばってん、そのうち箸もできるっちゃないと!?」
「箸なら考えるばってんね…」
日本人は特に塩分の取り過ぎのようだが、新しい技術でさらに健康になるのかもしれない。果たして人間の寿命は何歳まで延びるだろうか。
ゴールデンウィークが始まる1週間前、朝食を終えリビングでくつろいでいると、高齢のお袋が荒い呼吸で起きて来た。体調が優れないのか尋ねると、昨晩は胸が苦しくて眠れず今も苦しいと言う。
お袋は心臓が悪く心房細動を起こすので、以前より大学病院の循環器内科を受診しおり、最近は少し歩いただけで脈が乱れ呼吸が荒くなる。心房細動とは心房が十分な収縮をせず痙攣するように細かく震え脈が不規則になる病気で、動悸や息切れ倦怠感などの症状が起きる。さらに心房細動が原因で心房内の血液がよどみ血栓ができ、この血栓が脳に運ばれ脳梗塞を引き起こすことに繋がる。
「お袋!今から病院に行こう!」
「今日は土曜で外来は休みやし、病院は行きたくないね~」
「行かんといかん!あの病院は救急病院やけん、休みの日も診てもらえるっちゃないと?」
直ぐお袋が受診している大学病院に連絡してみると、外来は休みで複雑な検査はできなが当直の先生が診てくれると言うので、お袋を病院に連れて行くことに。病院で心電図など検査を行うと、お袋の脈拍は150回近くを打っており当直の先生は直ぐに入院を勧めた。
「この高い脈拍だと常にマラソンをしている状態できついでしょう。今、直ぐに入院した方が良いでしょう」
「今、直ぐにですか?」
「はい。入院せずに自宅に戻っても、直ぐに救急車を呼ぶことになりますよ!」
「…」
結局、お袋はその場で入院をすることになり、僕は入院の手続きを終え自宅に戻り入院に必要な物を準備し再び病院に向かった。病室に入ると先生が治療方針などをお袋に説明しており、戻った僕にこう聞いてきた。
「お母さんの足は随分むくんでいますね。普段、どのような食事をしているんですか?」
「お袋は以前、看護婦でしたが好き嫌いが多く偏食で塩辛い物や甘い物ばかり食べています。主食はお菓子ですね」
「元看護婦さんだったら塩分の摂り過ぎが心臓に良くないこと分かりますよね?足がむくみは塩分の摂り過ぎのサインです。入院中は減塩中心の心臓病食にしてもらいます」
ベッドに横になっているお袋は寂しそうに繰り返し先生に尋ねた。
「メロンパンは?…カステラは?…プリンは?…」
「パンもおやつも殆どの物に塩が入っているんでダメです。取り敢えず入院中は病院食に慣れて下さい」
「…はい」
お袋は途方に暮れた様子で小さく返事をした。
入院して10日ほどすると減塩食と薬が効き、お袋の心臓は落ち着きを取り戻し入院から20日後、退院することができた。退院時に先生からは減塩することと、飲酒はしないようきつく言われた。
退院して病院から出るとお袋が寿司を食べたいと言いうので、退院した日ぐらいは良いだろうと寿司を食べに行った。お袋は「美味しい♪美味しい♪」と言いながらビールを飲み寿司を食べていた。
「お袋、先生から言われたやろ!あんまり調子にのると、また直ぐに入院することになるぜ!医者の不養生と言うけど、看護婦も同じやな!」
「…」
毎日出勤していた頃はゴールデンウィークの終盤になると気が重くなったが、自由な時間が増えた今では感じなくなった。ゴールデンウィークが明け、足早に出勤する姿を見掛けると、「頑張れよ!」と心の中で声を掛けている。
新年度に就職や移動で生活の環境が大きく変化すると、新しい環境で新しい仕事を覚えていくという負荷が大きなストレスになってしまう。高ストレス状態が続いた後、ゴールデンウィークのように長期休暇を過ごすと、張りつめていた糸が切れてしまい、その反動で「五月病」と呼ばれるやる気が出ない状態や疲労感が続く。「五月病」は正式な病名ではなく、ゴールデンウィーク後に無気力で倦怠感や体調不良を感じる症状で、本来は適応障害、うつ病、不眠症、パニック障害などに当てはまる。またこのような症状は夏休み明けや正月休み明けなど、長期休暇が明けたタイミングで発症することが多い。
ところでゴールデンウィークにある報道番組を見ていると、「退職代行サービス」という会社が取材されており、近年、利用者が急増しているという。「退職代行サービス…なんだそれ!?」
「退職代行サービス」とは、勤めていた会社を退職する際、本人に代わって退職する意思を会社に直接伝え退職手続きを代行してもらうサービスで、ゴールデンウィークが終わったこの時期は申込みが急増するという。近年、就職した若者はZ世代と呼ばれ、自分の考えをしっかり話すことが苦手なうえ、コロナ禍で外出することができずコミュニケーション力が低下しているそうだ。本来は自ら退職意向を会社に伝えるべきだが、退職したいことを会社に伝えることができない人が「退職代行サービス」に依頼するという。また退職に労力や時間をかけずに効率的に会社を辞めたいという人も利用し、費用は3万円ほど掛かるそうだ。しかし自らがその会社に就職することを希望し晴れて社会人になったのだから、自分のケツは自分で拭くべきではないだろうか。お金で片付けることにどこか釈然としない。
厚生労働省の調査では、4年前の2020年3月に大学を卒業した人のうち、就職後3年以内に離職した人の割合は32.3%と、前の年に比べて0.8ポイント増え、就職後3年以内の離職率はこの10年で3割を超えるそうだ。
今は売り手市場なので転職先は簡単に見つかるだろうが、ブラック企業などで働いていない以上は手に職が付くまで辛抱して頑張ることも必要ではないだろうか。とは言え、僕も新卒で初めて就職した会社を1年半で辞めたな…。