先日、ある宴席でゼロ戦の技術の高さが話題となった。僕は飛行機が好きで、以前は戦記にのめり込みゼロ戦などの本を随分読んだので、その話題に盛り上がった。
「飛行機って夢があるちゃんね~。色んな想いを乗せて、障害物が一斉ない青い大空を飛ぶっちゃけん!」
僕がそう言うと、その席に参加していた元CAの女性が僕にこう言った。
「亡くなった主人が大切にしていた戦闘機の操縦桿をもらってくれませんか?」
「…」
僕は一瞬、固まった。
彼女のご主人は一昨年、仕事中に突然倒れ急逝してしまった。ご主人は以前航空自衛隊に入隊しており、その後、民間航空会社の整備士になり仕事の途中に倒れたそうだ。戦闘機の操縦桿はご主人が航空自衛隊を辞める際に、自衛隊の仲間から記念品としてもらい大切にしていたそうだ。
彼女はご主人を亡くし子供はいないので、興味のない戦闘機の操縦桿を、持っていても仕方ないと、どなたか喜ばれる方に引き取ってもらおうと思っていたそうだ。
「ご主人が大切にしていた物をもらえませんよ。興味がないのであれば、どこかの博物館に寄贈したほうがいいですよ!」
僕は断るが、彼女はあなたにはお世話になっているし飛行機が好きなのであればと、譲らない。僕は話題を変えその場をはぐらかした。
後日、僕が外出から事務所に戻ると、僕の机に戦闘機の操縦桿と水平器が置かれていた。スタッフに尋ねると、先日の女性が持ってきて置いて帰ったそうだ。その操縦桿は戦闘機F86の本物の操縦桿で、機銃やミサイルのスイッチが付いており、どっしりとしたステンレス製の台座に据え付けられていた。僕は彼女が新たな人生を進みたいのだと思い、一旦事務所に飾ることしした。
その操縦桿や水平位置指示器を見ていると、子供の頃から空に憧れ亡くなったご主人の想いを感じた。ひょっとすると彼は仕事などで辛いとき、当時の仲間に貰ったF86の操縦桿を握り、自分と戦っていたのかもしれない。そして人生を安定飛行するために水平器を見ながら、自分の夢に向かって飛んでいたのかもしれない。
F86の操縦桿を握った。心が熱くなった。
「やはりお返ししよう…」
written by ベルハルト