昨年、東京出張の際に、気に入っていたジャケットを汚してしまった。その日はテレビ番組収録の立会いで都内のボウリング場に出掛けて、どうやらボウリング場のボウルに付いていたグロースのような真っ黒い油汚れが付着したようだ。
汚れは5百円玉より少し大きいサイズで、ジャケットの肘の辺りに付着しており、ティッシュを水に濡らし軽く拭いてみたが、落ちることはなく逆に広がった。
その夜、ホテルに戻ると直ぐにホテルのフロントで汚れを見せ、クリーニングに出してもらった。そのホテルは名の通った一流ホテルなので、汚れは落ちるだろうと期待した。
翌日、ホテルのフロントで仕上がったジャケットを受け取った。
「お客さま、最善を尽くし強い薬剤で汚れを落とす作業をしましたが、これ以上の作業をしますと、ジャケットの生地が痛む恐れがあるので、これ以上の作業はできませんでした」
そう言われジャケットを見ると、汚れは多少薄くはなっていたもののほとんど落ちておらず、僕はがっかりしながら結構な代金を支払った。
福岡に戻りそのジャケットを捨てようかと迷ったが、もう一度染み抜きのできるクリーニング店に出そうとネットで店を探し、あるクリーニング店にジャケットを持ち込んだ。
その店は、お客さんが多く店は繁盛しており、感じの良い数名の女性スタッフが受付をしていた。女性スタッフは僕のジャケットを見ながら、いつ汚れたのか、何が付いたのかと、色々質問し、僕の返事をカルテのような用紙に記入している。汚れた当日にホテルでクリーニングに出したが、汚れが取れなかったことも伝えた。そして彼女は作業スタッフに汚れを見せてくると言い、店の奥にジャケットを持って行き、数分後に戻ってきた。
「この汚れは落ちるようです。お急ぎで無ければ10日ほどお時間をいただきたいのですが?」
僕は頷き、ジャケットを預け伝票を受け取った。これで汚れが落ちなかったら諦めてそのジャケットを処分しようと思った。
2週間ほど過ぎ、覚えの無い電話番号から着信があり、電話に出るとジャケットを出したクリーニング店の女性からで、染み抜きが完了したと言う。翌日、ジャケットを受け取りにクリーニング店に向かった。
「多少、変色したように見えますがいかがですか?」
と言いながら女性スタッフは僕にジャケットを見せてくれた。
「うわ~、落ちてる。凄い!」
汚れは完璧に落ちており、僕は心から感心してしまった。
店の奥から自信に満ち溢れた店のご主人が出てきて、僕に言った。
「シミの98%は取れるんです。殆どのクリーニング店ではシミや汚れを取る研究や工夫をしないんですよ。同業者もお客さんから預かったもので、汚れが落ちずに困ったら、うちに持ち込んで来るんですよ」
支払いを済ませお礼を言って僕は店を出た。ちなみに代金は東京の一流ホテルのクリーニング代の10分の1ほどの金額だった。
プロとは日々研究を重ね、腕を磨き、必ずお客さんの望みを必ず叶えることのできる人を指すのだろう。どんな職業でもその道のプロを目指さなくてはならない。
written by ベルハルト