僕の後輩に天国から奈落の底に落ちた者がいる。
その後輩は家柄も良く、福岡の都心部の大邸宅で生まれ育った。
彼の祖父は地元ではなかなかの名士で市会議員を務め、飲食店を開業するまでに。そしてその飲食店を百貨店や駅ビルの一等地に店を構えるチェーン店に育てあげた。その後、祖父は息子である彼の父にその事業を継承させた。彼の父はお坊ちゃんで、かなりの道楽者だったようだ。
僕の後輩は大学を卒業すると、東京の老舗料亭で修行をし、福岡に戻ってくるとその事業を父から引き継いだ。
彼は明るくお人好しだったので、彼には敵が一人もいなかった。
彼は計算が苦手で論理的に考えることができず、いつもどんぶり勘定だった。そのことが祟ったのか、それとも彼の父の道楽が原因なのか、その後、事業の業績は急激に悪化。ついに資金繰りの目途が立たなくなり、とうとう倒産してしまった。大邸宅や財産は全て売り払い彼と彼の父は債権者から逃れるため自己破産してしまった。薔薇色からドライフラワーのような人生になってしまった。
その後、紆余曲折合ったが彼は福岡を離れ、離島で小さな飲食店を始め細々と暮らしていたが、その離島は過疎が進み、お客さんが激減、福岡に残した親も高齢になったこともあり、福岡に戻ることを決断した。
彼は社会保険や年金を払っておらず、しかも数年前に酒気帯び運転で掴まり運転免許まで取消しになってしまった。今の彼は自分の身分を証明するものを何ひとつ持っていない。せいぜい持っているのは離島のスーパーマーケットのポイントカードぐらいだ(笑)
しかし彼からは全く悲壮感が感じられない。奈落の底に堕ちことで諦めが付いたのか、守るものが何も無いためなのか、それとも悟りを開いたのか、陽気に気楽に生きている。まるで陽気な疫病神にでも取り憑かれているようだ。
彼を見ていると何故か一所懸命生きるのがバカらしくなってしまう(笑)
福岡に帰ることを決めた彼は、僕を頼って連絡してきた。このままだと彼は将来、年金も無く生活することは困難でホームレスか、はたまた野垂れ死にか…(そして本当の疫病神になってしまうのだろうか…)
料理の腕は一流だから店でもやらせてみるか。
「陽気な疫病神か…」
written by ゴンザレス