肋骨を骨折しリハビリを受けるため入院するお袋に美味しい物を食べさせようと、入院前日がひな祭りだったのでちらし寿司の出前を頼んだ。
「病院食は不味いやろうし、今日はひな祭りやけん、ちらし寿司を頼んだばい!」
「はぁ~。明日から病院食やね~」
深くため息をつくお袋に、今月末のお袋の誕生日までに退院して旨いもの食べに行こうと励ました。そう言えば以前、僕も入院して病院食を食べたな~。
20年ほど前、明け方に胸が苦しくなり目が覚めた。どうも息を吸い込む時に胸が痛く苦しい。翌朝、自宅には僕一人だったので歩くこともままならなかったが、胸を抑えて近くの内科クリニックに向かった。
「今日はどうされました?」
「明け方から胸が苦しくて息を吸い込むと胸が痛いんです」
直ぐに心電図とレントゲンの検査を受け先生からこう言われた。
「随分、脈が乱れているので心筋梗塞の可能性があります。私が連絡を入れるので、直ぐに別の循環器科で精密検査を行って下さい。そのまま入院することになると思います」
「えっ!?そのまま入院!?」
「心筋梗塞は早い治療が何よりも大切です。命にかかわるので救急車を呼びましょう!」
「救急車!?先生、せめて着替えだけでも自宅に取りに戻りたいんですが…」
「それではタクシーを呼びましょう!兎に角、急いでください!」
何やら訳も分からず、タクシーで自宅に戻り3日分の着替えを取り、クリニックから紹介された病院に向かうと、玄関には車椅子に手を掛けた看護婦さんが待っていた。
「急ぎましょう。早く車椅子に乗ってください!」
精密検査の結果、僕は心筋梗塞ではなく心膜炎と診断された。心膜炎は心臓を覆う膜にウィルスが侵入し炎症を引き起こしている状態で、さらに悪化すると心臓の筋肉に炎症が広がり心筋炎になるそうだ。先生からは2週間入院し24時間抗生剤を点滴すると言われ、僕はそのまま入院することに。病院では晩酌することもできず、プラスチックの気の利かない器に盛られた冷めた病院食を食べた。
「はぁ~。これが病院食か…旨いものが食べたいな」
しかも部屋は個室が空いていなかったので4人部屋で、夜は同室の患者の鼾でほとんど眠ることはできなかった。退院前日に個室が空き個室に移り1日だけぐっすり眠ることができた。
お袋も個室が空いていなかったので2人部屋に入院している。不幸にもお袋と同室の患者さんはお袋の鼾で眠れないかもしれない(笑)