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黄金のちゃんちゃんこ
2024年03月29日

3月に入ると長雨と寒の戻りで、福岡の桜は平年より遅れて開花した。今週、誕生日を迎える高齢のお袋を祝おうと、満開の桜を臨める店に予約の電話を入れたが、既に花見客で予約は一杯だったのでホテルの和食レストランを予約した。結局、桜の開花が遅れたことで桜の臨める店を予約しなくて良かった。自然は人間の考えるようには動いてくれない。

大病を何度も克服し百戦錬磨のお袋は、今年の誕生日で米寿を迎える。長寿のお祝いは、中国の儒教の敬老思想と長寿を尊ぶという思想が起源で、長寿を祝う慣習が日本に伝わり平安時代の貴族の間で広まった。その後、祝いの節目は、奈良時代から鎌倉時代で変容し、現代では60歳「還暦」、70歳「古稀」、77歳「喜寿」、80歳「傘寿」、88歳「米寿」と続き、さらに90歳「卒寿」、99歳「白寿」、100歳「百寿」と現代の数え方で祝うことが広まった。中でも特に知名度の高い長寿の祝いは「還暦」と「米寿」でちゃんちゃんこを着て祝う。

昔は寿命が短く60歳を迎える頃には子供のように体が弱わっていたので、「還暦」は「生まれた年に還る」という理由から、子供用の袖なし羽織(はおり)の「ちゃんちゃんこ」を着せて祝うようになった。またちゃんちゃんこは厄除けの意味を込め、赤い物を着るようになったそうだ。「米寿」は、米寿の「米」を解くと八十八になることが所以だが、お米の稲穂を見立てた黄金(黄色)のちゃんちゃんこを着て祝う。しかし地方によっては長寿の祝いの節目の年を厄年と捉えお祓いをするところもあり、「祝うとそれ以上長生きしなくなる」ともいわれ、長寿の祝いをしない地域もあるそうだ。

予約時にホテルにその旨を伝え、黄金色のちゃんちゃんこを用意してもらい、ちゃんちゃんこを着たお袋が恥ずかしくないように個室を予約した。

当日、お袋が席に着くと黄金のちゃんちゃんこが運ばれてきた。お袋は驚いていたが、そう恥ずかしがることも無く、自ら喜んで黄金のちゃんちゃんこを着て同色の大黒帽を被った。

「どうね、似合っとるね?」

「似合っとうよ。しかし派手やな~。お袋が死んだら遺影にしてやるけん写真を撮ろう!」

「何ば、バカなこと言いよると!こげん祝ってもらえるなら、まだ長生きせんといかん」

そう言って笑うお袋の写真を撮った。その日お袋は上機嫌で旨い食事とワインを楽しんだ。そして食事が終わる頃、お袋が言った。

「次のお祝いは何歳でするんかね?」

「次は90歳の卒寿やね」

「もう直ぐやね!より頑張ろう!」

お袋は日本人女性の平均寿命の87歳を超えた。これからも元気に記録を伸ばして欲しい。


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