足の骨折しリハビリで入院している親父は嚥下障害から肺炎になり、鼻から管を入れ薬や栄養を摂取している。欧米では自ら食事を取れなくなった人を延命させることはあまり無いそうで、日本の高齢医療は稀だと医者が言っていた。若ければ回復し明るい未来はあるが、高齢だと回復しても徐々に弱っていくので未来に希望は持てない。僕が親父の立場であれば、まともに食事を取れずに苦しい処置が続くことに抵抗するだろう。
ところで女優の八千草薫さんが亡くなった。彼女の遺作に「まあまあふうふう」と言うエッセイがあるそうだ。このエッセイのタイトルの「まあまあふうふう」とは中国語で「馬馬虎虎」と書くそうで、言葉の由来は中国の宋の時代にある画家が頭は虎で体は馬の絵を描き、その絵を見た人が「これは馬なのか、それとも虎なのか」と質問したところ、「馬馬虎虎」と適当に返答したことに由来し、「いい加減」や「適当」を意味するそうだ。
エッセイでは「豊かに」歳を重ねた八千草さんが、自分らしく生きるためのヒントやどんな時も一生懸命に楽しく、そして「いい加減」に人生をまっとうする気持ちが綴られている。
この「馬馬虎虎」と言う言葉は、夫が几帳面で頑張り屋だった八千草さんにアドバイスした言葉で、八千草さんはこの言葉で随分と気が楽になり、その後の生き方に大きな変化を与えたようで、彼女が晩年とくに大切にした言葉なのだそうだ。
日本語にも“まあまあ”、“ぼちぼち”、“そこそこ”…など「馬馬虎虎」と同じような意味を持つ言葉があり、どれも「適当」や「いい加減」を意味する。一般的に「いい加減」と聞くとマイナスな印象を持つが、本来は“適度”や“良い加減”の意味で“ちょうど良い”ことを表す。日々の生活の全てが「いい加減」の方がちょうど良いのかもしれない。食事、酒、風呂の湯、仕事、運動…。
今年もようやくお得意先のカレンダーの制作が終わり、無事に納品することができた。若い頃はカレンダーを勢いよく捲り、無理にたくさんの予定を書き込んでいたが、これからは「馬馬虎虎」に楽しんで生きようと思う。高齢になった親父も「馬馬虎虎」に、彼の望むことをしてあげた方がもっと長生きするのかもしれない。
明日から3連休だ。親父を見舞って「馬馬虎虎」と声を掛けよう。
written by キムジー