ある日本人女性がカンボジアを旅行で訪れアンコールワットへ向かう途中、ある村で子供たちに囲まれて物乞いをされた。彼女を取り巻いた子供たちは皆ボロボロの服を着ており裸足で、中には地雷で足のない子供もいた。しかしその子供たちの瞳は皆キラキラと輝き表情は無邪気だったと言う。その村は物資も乏しく貧しいうえ子供を通わせる学校すらなかった。彼女は未来ある子供たちに教育を受けさせたいと思い、日本に帰国する飛行機の中でその村の子供たちを支援することを決意し、帰国後NGO法人を立ち上げた。
彼女の力強い呼びかけに支援の輪が広がり、ついにカンボジアのその村に小さな小学校を建て無料で子供たちに教育を始めた。そのNGOの支援活動にお得意先が賛同し支援を始めたことで、僕はお得意に強制連行され毎年カンボジアに出掛けボランティア活動を行う羽目に。カンボジアに出掛けるのは今年でなんと10回目になる。
NGOの代表を務めるその女性は25年もの間その村を支援してきたが、年齢的にも体力的にも今後支援活動を継続することが難しいと考え、彼女はカンボジア政府に小学校を譲渡し公立小学校にしてもらおうと考えた。彼女は年齢を理由に支援活動を止めることもできたが、彼女は最後まで子供たちを見捨てなかった。
彼女がカンボジア政府に譲渡の話を持ち掛けると、小学校を運営する予算が無いので多額の金銭を要求され、さらに譲渡後も金銭的な支援を求められた。しかし彼女はその要求を受け入れず、カンボジア政府と真摯に向き合い誠実に粘り強く交渉した結果、カンボジア政府は金銭の要求を取り下げ小学校の公立化で合意することに。
そして先週末、NGO法人からカンボジア政府へ小学校を譲渡する調印式が行われ、僕等とカンボジアの日本大使などが立ち合った。調印式は無事に終わり晴れてその小学校はカンボジアの公立小学校となり、僕らのカンボジアでの支援活動は終わった。
多くの日本人や日本企業は流行のように社会貢献活動と謳いカンボジアを支援し多くの小学校を建設したそうで、その数は2,000に上ると言う。しかし建設された小学校は、その後、日本人や日本企業からの支援が打ち切られ多くは廃校になってしまい、今ではわずか9校の小学校が支援を受け存続していると言う。ボランティアなど支援活動を始めることは簡単だが継続することは難しく、皆が幸せになる出口戦略を考えることはさらに難しい。
彼女は誠実で謙虚なうえ慈愛に溢れており、自らの意志を貫く強さを持っている。きっと彼女は天使なのだろう。悪魔が蔓延するこの世界に密かに天使も存在し世界を愛で包み多くの人に笑顔を与えている。この世はまだまだ捨てたものじゃない。
来年以降、僕はカンボジアに強制連行されず解放されると思うと、嬉しいやら、どこか寂しいやら…。
written by ベルハルト