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2019年07月12日

月曜の夜、Q太郎はしっかり流動食と好物のスイカを食べ普段と変わりなかった。僕はQ太郎の頭を撫で夜11時にベッドに入ったが、翌深夜1時に最近全く吠えないQ太郎の妙な鳴き声で目を覚ました。Q太郎の声は何とも弱々しくまるで子猫のような鳴き声だった。

「ミャン…ミャン…」

僕がQ太郎のいる部屋を覗くと家人がQ太郎を抱いて声を掛けていた。寝たきりのQ太郎に寝返りをさせるため、そして呼吸を確認できるように家人は毎日Q太郎と引っ付いて寝ていた。Q太郎は目をパチリと開け元気な様子で僕が数度頭を撫でると鳴き止んだので、安心してベッドへ戻った。しかしその後も時間をおいてQ太郎は繰り返し鳴くので、そのたびに僕はQ太郎の元へ行き声をかけ頭を撫でた。Q太郎は昼と夜がひっくり返ってボケてしまったのかと思った。

そして午前3時にまたQ太郎が鳴き出したので、僕は再び傍に行き頭を撫でると、かすかに尻尾を振った。喉が渇いているのかと思い牛乳を飲ませたが、飲みこまずに口からこぼれた。そしてQ太郎の頭を撫でていると、呼吸する胸の膨らみが徐々に小さくなり静かに胸の膨らみが止まった。僕は慌ててQ太郎の名前を呼びながら人工呼吸と心臓マッサージを始めたが、家人に止められた。
2週間前に心肺停止したQ太郎は家人が人工呼吸と心臓マッサージを必死に施し蘇生したが、今はQ太郎が苦しむこともなく眠るように息を引き取ったので、これ以上頑張らせたくないと家人は泣き崩れた。そしてQ太郎が僕にプレゼントしてくれたおまけの時間は終わった。おまけの時間は13日間だった。

僕は温かく柔らかいQ太郎を抱き締め、頬に顔を付け何度も感謝の気持ちを伝えた。

「Qちゃん。本当にありがとう。よく頑張ったね。永遠に一緒にいようね」

僕の涙がQ太郎の頬を伝った。Q太郎が一人寂しく逝くことなく、ちゃんと看取ることができて本当に良かった。寝たきりでQ太郎は鳴くことすらままならないのに、懸命に鳴いて僕を起こし、そして最後の力を振り絞って尻尾を振りながら僕に最後のメッセージを伝えていたと家人が言った。

「父ちゃん、私の傍にいて…傍にいて…。本当にありがとう…」

Q太郎は月命日を僕が忘れないように、自らの名前と同じ9日に息を引き取った。

夜が明けQ太郎の体を触ると死後硬直が始まっていたが、足の肉球はまだ温かく柔らかいのでQ太郎はぐっすり眠っているように思えた。その後、お世話になった動物病院の先生に電話をかけ、今朝早くにQ太郎が息を引き取ったことと、今までのお礼を伝えた。そして先生に紹介して頂いた動物葬儀場に問い合わせた。

「棺桶やお墓はどうなさいますか?」
「棺桶もお墓も要りませんが、骨壺が欲しいのですが…」

いつも散歩などに出掛けていた際、Q太郎が喜んで自ら中に入るお気に入りのバッグがある。そのバッグにQ太郎を寝かせ、好物だったジャーキーとフルーツ、それに花を添えて火葬してもらった後、Q太郎を自宅に連れて帰ることにしている。
Q太郎は19年寝食をともにした大切な家族で、僕の宝物だ。いずれ僕と同じ場所にQ太郎も樹木葬で葬ってもらうつもりだ。僕の心には家人の言ったQ太郎の最後のメッセージがしっかり刻まれている。

「父ちゃん、傍にいて…」

written by ゴンザレス


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