「あと何回満開の桜を見れるやろうか?」
お袋がそう言っていたので、先週末に親父とお袋を花見に連れて行った。
福岡の桜は満開で先週末が今年最後の見ごろだったこともあり、桜の名称はどこも人が一杯で駐車場の空きは無く車を止めることができなかった。桜の咲いている場所から少し離れた駐車場に車を止めそこから歩こうと考えたが、老いた二人を歩かせることは大変だと思い、少し足を延ばし室見川添いの土手に1㎞ほど続く桜並木を車の中から見せることにした。
桜の花が散り始めた満開の桜並木の脇道を車のサンルーフを開けゆっくりと走った。するとお袋は感嘆の声を上げた。
「うわ~綺麗!こんな桜初めて見た~」
サンルーフから数枚の桜の花びらが車に舞い込んでくる。
「お父さん、もっとちゃんと見らんね。来年は桜ば見れんかもしれんとよ!」
お袋が親父に言う。
「そうやな~」
親父は頷いた。
「バカなこと言わんよ!また来年も連れてくるけん、元気に長生きせんと!」
そう僕が二人に言うと、お袋は笑いながら、
「そうやね~ありがとう」
花見の後は二人を旨い食事に連れて行った。
年を取り感動や驚きのない平凡な毎日の中、自らの老を見つめ弱りながら暮らすことはきっと虚しく寂しいのではないだろうか。親父もお袋も近所に買物に出掛けることすら大変なようで、二人だけで温泉など旅行に出掛けることはもうできない。今の二人にとって美しい景色を見ることや、賑やかに美味しい食事を取ることが何よりも幸せな時間なのだろう。
今はまだ頑張って歩くことができるので、美しい景色を見せ美味しいものを食べに連れて行こうとつくづく思った。
「死んでからじゃ恩返しはできんし、このままやったらきっと後悔するな…」
僕は心の中でそう思った。
「また綺麗な景色ば見に行って、旨いもんば食べに行こう!」
別れ際に親父とお袋に言うと、二人は笑って頷いていた。
written by ダニエル