今週、半年近く入院していた親父が退院することになり、病院に迎えに行った。病室に入ると親父は顔色も良く元気な様子で僕を見ると嬉しそうに手を振った。
入院したての頃、親父がトイレに行きたいと言うので、見舞いに来ていた僕が介助しながらトイレに連れて行こうとすると、看護婦さんから強い口調で勝手なことをしないようにと注意された。
彼らは親父が転んで怪我でもしたら病院の責任問題になりかねないと、何かと神経質だった。
そのため僕は病院のスタッフともめることがあった。
この病院のスタッフは患者がいつも静かにベッドに横になり、おむつで用を足し、定時のおむつの交換時に文句も言わず用を足したおむつを交換する患者が優等生で、逆に自ら弱った体でトイレに立つ親父を不良老人のように見えたのだろう。
親父にトイレに行きたくなったときはおむつで用を足すように伝え、どうしてもトイレに行きたいのであれば、転ぶと危ないからナースコールで看護婦さんを呼び、介助してもらうように言い聞かせた。
しかし親父はおむつで用を足すことが嫌で、しかも看護婦さんをわざわざ呼ぶことも躊躇し、どうしても自らトイレに立ってしまう。
そこで病院のスタッフと話し合い、消灯時間以降と、見舞い客がいない昼間は大きなベルトでお腹をベッドに括られ抑制されることになった。
親父がひとりの間、ベッドに括られ過ごすことを思うと僕は胸が痛かったが、少しずつ回復している親父が転んで怪我をすることを考えると仕方なく思った。
親父にはリハビリを頑張り早く回復して、この病院を退院しようと伝えた。
親父はリハビリを懸命に頑張り退院の日を迎えることができた。
退院した親父はやっと拘束されたベッドから自由になれたことを喜んでいるようだった。
一時、嚥下障害で食事をすることができなかったのだが、リハビリによって食事ができるまでに回復した。
病院を出ると、お袋と暮らすケアマンションに向かった。
ケアマンションに到着し、1階にある喫茶店で昼食を取った。病院食に飽きていた親父は何度も旨いと頷きながら喜んで食べていた。
しかもお袋のランチまで頬張る始末。(何という食欲…)
食事の後、部屋に戻るとテーブルに母の食べかけのパンを見つけ、また頬張った。
病院で親父はよほど飢えていたのだろうか…。親父は僕らが目を離すと、周りにある食べ物は何でも口に頬張っていた。お驚いたことにテーブルの上に会った角砂糖まで頬張っていた。
「親父、まるでゲリラに拘束され無事に解放されたジャーナリストみたいやね!そげん腹が減っとると?」
親父は角砂糖をガリガリ食べながら笑っていた。
本能のまま自由に生きる。生き物にとって何よりも幸せなことなのかもしれない。
written by サンゴール