両親とも定年退職後は金銭的に余裕があり二人でよく旅行に出掛け、それぞれ自分の趣味を楽しみながら悠々自適に生活していたが、親の兄弟が他界し親父は元気がなくなってしまった。まるで自らの他界の時期を実感しはじめているようだ。
最近、親父は毎日の生活に覇気がなく急速に老けている。親父は数年前に癲癇になり、パーキンソン病まで患ってしまった。どちらも脳の病なので突然倒れてしまったり、動けなくなったりしてしまうので、母は親父から目が離せない。親父は食も細くなり体力は低下し、あまり動かなくなったので母が家事全般をこなしている。特に親父のトイレと入浴は大変で、夜中に親父がトイレに一人で立つと転んでしまうのではないかと、母は親父のトイレに付き添い睡眠不足の日が続いている。このままでは夫婦そろって共倒れしそうだ。
先日も夕食後に親父は床にうずくまり動けなくなったので、病院へ連れて行き検査を受けさせた。入院までは必要ないと医者は言ったが、母の疲労を考えると、親父を入院させ母を休ませないと体がもたないので、医者に頼み父を入院させることにした。
入院した親父は若い看護婦さんに格好の悪いところは見せられないと思うようで、自らトイレに行くのだが、親父が転んで骨折しては大変と、ベッドの下には重量に反応するマットが敷かれている。そのマットに親父の体重が掛かるとナースステーションでチャイムが鳴る仕掛けなので、夜中にトイレに行こうと親父がマットを踏むと、看護婦さんが直ちに駆けつける。
「トイレですか?ナースコールを押してくださいね!」
そう、看護婦さんに注意され、看護婦さんに介助され尿瓶で用を足すことになる。
「まるで監視されとるみたいやね…」
親父はまずそうな顔で看護婦さんに従うそうだ。
「親父、若い看護婦さんに下の世話をされるのは恥ずかしいやろ?」
僕がそう親父に聞いてみると、
「この歳になるとどうもないったい。お前もすぐにその歳になるよ。ハハハ」
「俺の時代はロボットがしてくれるけん、恥ずかしくないやろ」
親父を見ているとまるで明日は我が身のように感じるが、老後を元気に暮らせるためにどのように老いと向き合い、幸せに暮らすためにはどうするべきなのか、両親を観察しようと思っている。誰もが老いに勝つことはできないが、老いとちゃんと向き合い、徐々に弱りながらも心身ともに健全に生きることはできるはずだ。今週末、親父を老人施設に入居させること無く、皆に負担の掛からないようにするために、どのような暮らし方がベストなのか話し合うことにしている。
written by ダニエル