最近、親の老いが加速しているよう思える。両親とも数年前に大病を患ったが、今では何とか健康に暮らしている。母より父のほうが弱っているようで、歳を重ねた父は耳が遠くなり、周りは大きな声で何度も同じことを喋るのが苦痛になり、逆に父も何度も聞き返す事が嫌になったようで、父は少しずつ会話に加わらなくなった。以前より僕は補聴器を勧めていたが、父は頑なに拒んでいた。僕があまりしつこく言うので、最近ようやく父は補聴器を付けるようになり、周りとの会話に加わるようになった。
以前の父は一家の大黒柱で逞しかったが、最近は母のほうが逞しく父は母にいつも叱られている。僕は動けるうちに必要ない物を処分するように言っているが、父はなかなか物を捨てたがらない。先日もこんなやり取りがあった。
「元気で生きとるうちに要らんもんば捨てんと、残った者が大変やろ~が。1日1個で良いけん要らんもんば少しずつ捨てり~よ!」
僕が父にそう言うと、母も同調して、
「そうやろ。お父さんは定年してからスーツ着らんとに、スーツもネクタイも一杯タンスにあるとよ。それにあの山のようにある本はどうするとやろうね~」
「…」
父は黙ってその場を離れた。僕は母にもこう尋ねた。
「お袋もこげん食器が要るとね?1年に1度も使わんもんは捨てんね」
「1年に1度も使わん食器もあるばってん、買ってから1度も使ってないのもあるとよ」
「何やそれ!?」
「昔、お父さんと伊万里の陶器市に行って良か器ばたくさん買うたったい。持って帰ってくるのにも重いけん大変やったとよ。私は何度か使おうとしたばってん、お父さんがもったいないけん、まだ使わんでよかって言うけん閉まとうと」
「あんたたち、頭おかしいっちゃないとね!わざわざ遠くまで高い器ば買いに行って、苦労して持って帰ってきてくさ。使わんで死んでしまうばい!」
母は隣の部屋に居た父に
「お父さんあの伊万里の陶器市で買った器はどうするとね~!」
「…」
「最近、補聴器ばつけとるとに聞こえんふりばするとよ」
元気で少しでも長生きしてくれたらと願っているが、あの大量の物を今のうちに何とかしとかなければ、結局僕が片付けることになる…。
written by ダニエル