自宅で足の指の爪を切っていると、ふと昔の記憶が蘇った。
当時、小学校の行事で鍛錬遠足というものがあった。お弁当やおやつをリュックに入れ、水筒を下げ、距離にして往復40キロほどの道のりを歩くものだ。歩くだけの遠足なので全く費用が掛からず親にとっては嬉しい遠足だ。
4年生頃だったか、鍛錬遠足に出かけるとき親から汚れても良いように、古い靴を履いていくよう言われ、仕方なく古い靴を履いて家を出た。
集合場所の小学校を出発し片道20キロを歩き、目的地の海を眺める小高い公園に到着。目的地ではお弁当やおやつなどを食べ、2時間ほど過ごし帰路についた。
帰り道、右足の親指の爪のあたりに違和感を覚えた。然程気にしなかったが遠足を終え自宅に戻る頃には少し痛みを感じた。
自宅に戻り右足の親指を見ると爪の中にまめが出来ていた。そして3日ほどすると爪の中のまめは破れたが、爪の中だったので処置もせず放っておいた。しかし一向に痛みは治まらず、日増しに酷くなっていった。そしてついに化膿してしまい親指の半分ほど爪が剥がれてしまった。
母に足を見せていると、父も喜んで寄って来た。
「こりゃ~爪を剥がんといかんな」
父の一言に僕は言葉が出なかった。
「…」
翌日、父と外科病院へ行くことになった。この病院の先生は荒っぽい方で、小学校の生徒の間ではやぶ医者と噂されていた。
待合席で待っていると名前を呼ばれ父と診察室に入った。傷を先生に見せると直ぐに先生は昨日の父と同じことを言った。
「こりゃ~爪を剥がんといかんな」
僕はギョッとしながら、先生に痛みは治まりつつあるだとか、もう少し様子を見てみてはと抵抗したが先生は全く応じない。
そして父はとんでもないことを言い出した。
「先生、麻酔をかけると治りが遅くなるんで使わんで剥いでください!」
先生は妙に納得し頷いていた。
僕は泣きそうな顔で
「うそやろ~」
その後、処置ベットに寝かされ看護婦さんと親父に押さえ込まれ、先生は爪を剥ぐためのものなのか、医療用のニッパのようなものを握り僕の爪を強引に引っ張る。なかなか爪が取れないので、先生は看護婦さんにペンチを用意させた。
そしてペンチで僕の爪を挟むと一気に剥いだ…
「ぎゃーーー」
帰り父に何で麻酔してくれなかったのか尋ねると
「麻酔をしたら痛くないけど、治りが遅いったい。痛かったら傷の周りの神経やら細胞が集中して早く治そうとする!」
確かに傷の治りは早かった。
今の時代では考えられないが、昔は荒っぽい時代だった。
written by ダニエル