昼休みに弁当を買おうと外出した。大通りに面した歩道を歩いていると、低層階のビルの上から通行人に向かって1羽の烏がギャーギャー騒いでいる。通行人を威嚇しているように見えたので注意しながらその場を離れた。
弁当を買い来た道を戻ると、先ほどの烏がまだ騒いでいる。ふと、大通りの車道脇を見ると別の一羽の烏が倒れている。車に衝突したのか、それても動物に襲われたのだろうか。近寄ってみると弱っていて飛ぶことも動くこともできないようだ。その時、ビルの上で騒いでいた烏が、僕の頭目掛けて襲ってきたので慌ててその場を立ち去った。
「髪が薄くなってきた俺の頭に何てことしやがる!」
ビルの上の烏は弱った烏を必死に護り励ましているようだ。2羽の烏は親子なのだろうか、それともカップルなのだろうか…。そう考えると可哀想に思えた。そこで事務所に戻りスタッフにそのことを話し、弱った烏がまだいるか再確認し、野生動物を保護する公共の施設に連絡してみることに。
意外と素直な男性スタッフは直ぐに弱った烏を確認するために事務所を出ていった。そして戻ってくるなり開口一番、
「最悪です…」
話を聞くと、彼は現場で弱った烏を確認していると、その弱った烏を目掛けてバスが迫ってきたそうで、彼は車道にいたその烏を抱えて歩道の端に寄せて放してやったそうだ。そう、彼は意外に優しい男なのだ。
すると弱った烏を護ろうと思ったのか、ビルの上で騒いでいたカラスが彼に向かって決死の糞尿攻撃を仕掛けたきたそうだ。そして彼のズボンにべったりと糞尿の後が…。
「えっ、お前…弱った烏に触れたんだ…」
彼はネットで、野生動物を保護してくれそうな施設を見つけ連絡してみると、野生の烏や雀は鳥インフルエンザなどの病原体が多く宿っているそうで、助けることはできないそうだ。心配になった彼はネットで烏のことを調べ、烏などの野鳥の体はもちろん特に糞尿などには多くの恐ろしい病原体が潜んでいることを知った。そして彼は薬局で消毒スプレーを買ってきて全身を消毒する羽目に。
翌日、彼の糞尿を掛けられた箇所に出来物ができていたそうだ。そう言えば俺も昨晩から咳が出るな…。新種の鳥インフルエンザが発症したのかもしれない…。もしこれが世界的にパンデミック化すると、うちの事務所が感染源で、彼が最初の感染者になるだろう(笑)
そう、優しさだけで野生動物や野鳥に触れてはいけないのだ。
written by 彦之丞