先週、いつも通り筋トレを終えタオルで汗を拭っていると、携帯電話に未登録の番号から着信があった。電話はマンションの管理会社からで、マンションの駐車場で隣の車の所有者が僕の車にドアをぶつけ傷が入り、僕と連絡を取りたいと問い合わせがあったという。僕はかなり凹んでいるのだろうと想像し、自宅に戻ると駐車場へ向かった。駐車場には日頃から交流のある家族の奥さんが青い顔で立っており、僕を見るとペコリと頭を下げた。
「すみません。車から降りようとドアを開けると、突然、強い風に煽られ車のドアが当たり傷を付けてしまいました」
車の助手性のドアを見ると、隣の車の塗料が付着し少し傷が付いているようだ。その箇所をシートで拭くと、付着していた塗料と傷は取れたが何となく凹んでいる。
「いつもお車を大切にされていますし、修理代をお支払いしますので修理してください」
「この傷で修理に出しても、費用は結構掛かりますよ」
「いえいえ、費用は良いので修理に出して下さい」
「う~ん、正直に連絡してもらいましたしね…。走っていて石を跳ねて傷が入ったということにして、修理は結構です」
「それではこちらの気がおさまりません。修理費用はお支払いしますから」
「明日、洗車をして傷の具合を見てみます」
翌日、洗車すると助手席のドアが微妙に1cmほど凹んでいるが、目を凝らして見ないとわからない。
「大きく凹んでいたら修理に出すけど、この程度で修理に出すのもなぁ…」
その日から不思議と隣に駐車している家族とよく顔を合わせ、その度に恐縮して頭を下げてくる。そしてご主人が菓子折りを持って尋ねて来た。
「この度は本当に申し訳ございませんでした。本来なら女房も一緒に来るべきですが、風邪で寝込んでいて…」
「寝込んでしまったんですか?もう気にされないよう奥様にお伝え下さい」
後で考えたが、もし逆の立場でこちらの不注意で隣の車を傷つけ所有者が寛容に対応してくれたら、その所有者にいつまでも頭が上がらず、顔を合わせることも気が引けるだろう。そう考えると、対等な関係でいるために修理してもらった方が良かったのかもしれない。 「しかし微妙だなぁ…」