ゴールデンウィークが始まる1週間前、朝食を終えリビングでくつろいでいると、高齢のお袋が荒い呼吸で起きて来た。体調が優れないのか尋ねると、昨晩は胸が苦しくて眠れず今も苦しいと言う。
お袋は心臓が悪く心房細動を起こすので、以前より大学病院の循環器内科を受診しおり、最近は少し歩いただけで脈が乱れ呼吸が荒くなる。心房細動とは心房が十分な収縮をせず痙攣するように細かく震え脈が不規則になる病気で、動悸や息切れ倦怠感などの症状が起きる。さらに心房細動が原因で心房内の血液がよどみ血栓ができ、この血栓が脳に運ばれ脳梗塞を引き起こすことに繋がる。
「お袋!今から病院に行こう!」
「今日は土曜で外来は休みやし、病院は行きたくないね~」
「行かんといかん!あの病院は救急病院やけん、休みの日も診てもらえるっちゃないと?」
直ぐお袋が受診している大学病院に連絡してみると、外来は休みで複雑な検査はできなが当直の先生が診てくれると言うので、お袋を病院に連れて行くことに。病院で心電図など検査を行うと、お袋の脈拍は150回近くを打っており当直の先生は直ぐに入院を勧めた。
「この高い脈拍だと常にマラソンをしている状態できついでしょう。今、直ぐに入院した方が良いでしょう」
「今、直ぐにですか?」
「はい。入院せずに自宅に戻っても、直ぐに救急車を呼ぶことになりますよ!」
「…」
結局、お袋はその場で入院をすることになり、僕は入院の手続きを終え自宅に戻り入院に必要な物を準備し再び病院に向かった。病室に入ると先生が治療方針などをお袋に説明しており、戻った僕にこう聞いてきた。
「お母さんの足は随分むくんでいますね。普段、どのような食事をしているんですか?」
「お袋は以前、看護婦でしたが好き嫌いが多く偏食で塩辛い物や甘い物ばかり食べています。主食はお菓子ですね」
「元看護婦さんだったら塩分の摂り過ぎが心臓に良くないこと分かりますよね?足がむくみは塩分の摂り過ぎのサインです。入院中は減塩中心の心臓病食にしてもらいます」
ベッドに横になっているお袋は寂しそうに繰り返し先生に尋ねた。
「メロンパンは?…カステラは?…プリンは?…」
「パンもおやつも殆どの物に塩が入っているんでダメです。取り敢えず入院中は病院食に慣れて下さい」
「…はい」
お袋は途方に暮れた様子で小さく返事をした。
入院して10日ほどすると減塩食と薬が効き、お袋の心臓は落ち着きを取り戻し入院から20日後、退院することができた。退院時に先生からは減塩することと、飲酒はしないようきつく言われた。
退院して病院から出るとお袋が寿司を食べたいと言いうので、退院した日ぐらいは良いだろうと寿司を食べに行った。お袋は「美味しい♪美味しい♪」と言いながらビールを飲み寿司を食べていた。
「お袋、先生から言われたやろ!あんまり調子にのると、また直ぐに入院することになるぜ!医者の不養生と言うけど、看護婦も同じやな!」
「…」