桜は新緑の葉に身を纏い葉桜へと姿を変え、もう直ぐ皆が待ち望むゴールデンウィークだ。以前、ゴールデンウィークは殆どの企業で暦通りに出社していたが、最近はゴールデンウィーク中の平日も休みにする企業が増え、今年は最大9連休になる人も多いだろう。新型コロナウィルスが落ち着ついた今年のゴールデンウィークは観光地などで大きな混雑が予想される。
医療機関では新型コロナウィルスの影響は今でも続いており、親父が入院する病院では患者との面会は週に1度10分、面会の人数は3人までと制限されているが、容体の悪い患者のみ面会は週に3度と緩和されている。
2週間前に親父は肺炎で熱を出し容体が悪化したので、今は週に3度見舞いに行っているが、面会時間は10分なので直ぐに制限時間になってしまう。親父の容体は多少安定しているようだが、見舞いに行っても親父は目を閉じていることが多く話し掛けても反応しない。そこで短い時間だがスマホで親父の好きだった音楽を聴かせることに。
親父は美空ひばりと生年月日が同じで美空ひばりのファンだったので、彼女の歌「川の流れのように」を親父の耳元で流した。すると驚いたことに親父は目を開け潤んだ目で歌のサビを口ずさんだ。
「あ~あ~♪…」
その時、僕は思った。
(ひょっとすると、親父はこの歌の歌詞のように川の流れに身をまかせ、穏やかな死を望んでいるのではないだろうか…)
以前、親父とお袋はお互い延命処置をしないと約束していたが、嚥下障害になった親父は3年も食事ができず経管栄養や点滴を受け生き永らえている。これも延命処置で親父の意思とは違うとお袋と口論になったが、意識があるうちは生かしてあげたいとお袋は言う。自然界では自ら食べることができなくなる時は死を表す。あの百獣の王ライオンも高齢になり獲物を捕らえることができなくなると、自ら死に場所を探し藪の中に姿を消すと言う。しかし人間は自ら意思で死に場所を探すことは難しい。
「あ~あ~♪川の流れのように~穏やかにこの身をまかせていたい。あ~あ~♪川の流れのように~いつまでも青いせせらぎを聞きながら~♪」
とにかく親父が穏やかで安らかな死を迎えられるよう切に願っている。