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思い出深い仕事 vol.1
2022年07月22日

広告業界では企画やデザインのコンペがよく行われ、僕も若い頃は多くのコンペに参加しプレゼンを行った。コンペはお得意先から声の掛かった複数の広告会社で行われ、お得意先のオリエンで与えられた課題に対し企画を練りプレゼンを行う。その後、お得意先がプレゼン内容は検討し、プレゼンに参加した1社の企画が採用される。しかし多くのコンペに参加して思うことは、オリエンからプレゼンまでの間で勝敗が決まることが多かった。

あるお得意先で年に2回、新聞の全面カラー広告のデザインコンペが行われ、決まって4社の広告会社が参加し、僕も毎回そのコンペに参加した。そのお得意先は世界中に空調設備を製造販売する企業で、オリエンでは毎回、納入実績のあるひとつの国がテーマで与えられ、その国の象徴的な風景などをデザインして提案することになる。お得意先から海外ロケの承認が下りなかったので、画像(フィルム)を借りてデザインを制作するのだが、当時、インターネットは普及しておらず、今のようにネットで簡単に画像を借りることはできなかった。当時、画像を借りるには数万点の画像をカテゴリー別にストックしているレンタルフォトスタジオに出掛け、そこで必要な画像を借りデザインにしていた。レンタルフォトスタジオは画像を借りることで費用は発生しないが、画像を広告物に使用すると費用が発生した。

僕はお得意先のオリエンを受けると、直ぐに福岡の複数の有力なレンタルフォトスタジオに連絡を入れ、お得意先からテーマで与えられた国に関する象徴的な画像を全て予約し差し押さえた。僕は日頃からレンタルフォトのスタッフに差し入れをするなどコミュニケーションを取っていたので、彼らは僕に非常に友好的だった。そして他の広告会社がレンタルフォトスタジオに出掛ける頃にはデザインに使えそうな画像はひとつも残っていなかった。僕はデザインに使用しなかった画像をプレゼンの前日に返却していたので、他社はデザインを制作する時間はほとんど無かっただろう。僕はそのお得意先のコンペで初回は負けたものの、それ以降、一度も負けたことはない。

その後、お得意先にコンペに参加している他の広告会社から僕に対してのクレームが入った。僕と親しかったお得意先は笑いながらこう言った。
「他社からクレームの連絡があったよ。あまり他社を虐めたらいかんよ(笑)」
「すみません(笑)」


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