僕はマンションの駐車場でよく洗車をするので、隣の駐車場を契約している同じマンションの住人と顔馴染みになった。その住人はご主人と奥さん、それに4歳と1歳の女の子の4人家族で、中でも4歳の女の子は人懐っこく僕に話かけてくる。正月が明け、その女の子と久しぶりに会ったので新年の挨拶を交わした。
「あけましておめでとう!」
僕が女の子に挨拶すると、
「あけましておめでとうございます」
と元気に返してくる。
「お正月はお爺ちゃんとお婆ちゃんに会いに行ったの?」
「うん。会いに行った」
「お年玉たくさん貰った?」
「うん。たくさん貰ったよ!」
女の子は笑顔で僕に応えた。そして僕はつい口を滑らせ、社交辞令を言ってしまった。
「じゃ~今度、おじちゃんもお年玉を上げようね」
「うん。嬉しい」
後で考えたが、子供に社交辞令は通じるのだろうか?僕が子供の頃は周りの大人が言った言葉はしっかり覚えていたが…。きっとあの女の子も僕の言葉をしっかり覚えているのではないだろうか。
その日から女の子にどんなお年玉が良いか考えるようになった。ポチ袋に入れたお年玉?それともお菓子?それとも「ふるさと納税」で送られてきた返礼品のみかん…?色々考えるうちに女の子と会う機会がなく10日ほど過ぎた。あれこれ悩んだ僕は家人にこの出来事を話すと、家人は熊の形をしたクッキーを買ってきてくれた。
早速、僕は女の子の住む部屋に出掛けチャイムを押すと、ご主人がドアを開けてくれた。ご主人に先日の出来事を伝えるとご主人は快く女の子を呼んでくれた。そして女の子にクッキーを渡すと女の子は大喜びだった。
「はい。約束していたお年玉!」
「おじちゃん、ありがとう!」
僕は女の子が喜んでくれたことよりも約束を守れたことに胸を撫で下ろした。
今後は社交辞令を言わないようにしようとつくづく思った。「嘘つきおじさん」と呼ばれないように子供との会話は特に気を付けなければならない。