とにかくお袋は寒がりで10月中旬から使い捨てカイロを身に付け、自宅でもダウンジャケットを着ている。そこでお袋に冬山登山用の服が温かいと薦め、僕のお気に入りのアウトドアショップに出掛けた。
そのアウトドアショップは用途に合わせて多種多様の衣料品やグッズを販売し、冬山登山用の衣類はもちろんグッズも販売している。冬山登山用の衣類は軽量で防寒防水に優れ暖かく、通気性も良いので汗などの蒸れを逃がし機能的な衣類だ。お袋はアウトドアショップに入ることは初めてで、販売されている商品はごつい物ばかりだと思っており慣れない様子で店には入ったが、意外にもファッショナブルな服が多く並んでいたのでお袋は興味を示した。
お袋はズボンやカーディガンそれにフリースジャケットなど気に入ったものを試着室に持ち込み、3時間ほど色やサイズを合わせ僕と店員を巻き込んでファッションショーを繰り広げた。一通り必要な衣類などを購入し、店を出る直前にさらに気に入ったシャツを見つけ再び試着をしたが、自分に合ったサイズがないので店員に探してもらった。店員はシャツが陳列された棚を確認しバックヤードも探してくれたが、お袋の求めるサイズはなくがっかりしていた。すると店員はショーウィンドウのマネキンが着ているシャツまでサイズを確認に行ってくれた。
「お客様がお探しのサイズがありました。マネキンが着ていましたので、直ぐに脱がしてご用意いたします」
お袋はその店員の接客に喜んでいた。
今の時代ポイントカードは多くの店舗で発行され、最近ではスマホなどで会員登録し商品を購入するたびにポイントが貯まる。ポイントカードの目的は顧客の囲い込みだが、ポイントカードが溢れる中、顧客の囲い込みは本当にできるのだろうか? ポイントカードで顧客を囲い込む前に、気持ちの良い接客の方が客には響くように思う。そして笑顔や自然な会話で顧客を囲い込んだほうが、顧客とは長い付き合いができるのではないだろうか。
自宅に戻るとお袋のファッションショーがまた始まり夜遅くまで付き合わされた。翌朝は今年一番の寒い朝だった。昨日、購入した服をお袋は早速着ていたので感想を聞くと、使い捨てカイロを付けなくても暖かいと喜んでいた。
「またあの店に買物に行かんといけんね。あの店員さんは感じよかったもんね~」
「お袋、冬山登山でも始めてみたら?」
「…」