殺人、自殺、孤独死などの経歴のある不動産物件を最近では「事故物件」と呼ぶが、不動産業界では「心理的瑕疵(かし)物件」と呼ぶそうだ。瑕疵とは聞きなれない言葉だが“欠陥”と言う意味で、「物理的瑕疵物件」とは雨漏りやシロアリなどによる害虫被害、耐震性能の不足など建物の物理的な問題を指し、「心理的瑕疵物件」とは過去に殺人や自殺、孤独死などがあった物件を指す。こうした情報は買主や借主にとっては契約の判断になる重要事項で、売主や貸主はその事実を告知する義務があり、宅地建物取引業法にしっかりと定められている。
今では「事故物件」をネットで簡単に検索でき、全国の「事故物件」をマップで探すこともできる。僕も引越しをする前にそのサイトを覗いたことがあるが、「事故物件」は日本の津々浦々に存在している。そして新型コロナウィルスの感染により孤独死が増えたことで「事故物件」は増加し、不動産取引価格に影響を与えているそうだ。孤独死で1割、自殺で3割、殺人事件だと5割も値が下がると言う。
昔、僕が暮らしていた家の隣で殺人事件が起きた。隣は4人家族で夫婦と僕と齢の変わらない二人の子供が暮らし、僕はその家族とごく普通に接していた。
事件は早春の夕方、2人の子供が外出し留守中に起きた。夫婦喧嘩の末、主人が奥さんを金属バットで数回殴り、包丁で刺す残虐な事件だったが、もし子供が自宅にいれば殺人事件まで発展しなかったのかもしれない。
僕は殺人事件のほぼ同時刻に外出先から帰宅し自宅の玄関のドアを開けたようとした瞬間、背後に殺気のような不気味さを感じた。振り返ると、塀の向こうに隣の主人が恐ろしい形相で僕を睨んでいたので、僕は怖くなりペコリと挨拶して直ぐ自宅の中に入った。後に警察から聞いた話だが、僕が自宅に帰宅した直前に主人は奥さんを殺害したそうだ。
その事件から数年間は子供2人でその家で暮らしていたが、いつの間にかその家は取り壊され平地にされ売りに出されたが、「事故物件」だったので長い間売れなかった。そして事件から20年ほど経ちその土地は売れ家が建った。今では何もなかったかのように、ある家族が普通に暮らしている。
「事故物件」と言う言葉は映画にもなったことで広く使われるようになり、多くの人がこの言葉に敏感に反応する。しかし日本の国土は狭く過去には戦争や戦などが何度も起きており、今でも日本中の至るところで遺骨が眠っているのかもしれない。そう考えると「事故物件」にあまり敏感に反応する必要はないのかもしれない。