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生きろ!生きろ!生きろ!!
2021年05月14日

今年のゴールデンウィークウィークも昨年同様に新型コロナウィルスの拡大で外出せずに自宅で過ごした。5月2日の夜、いつものように晩酌をしていると外から車のクラクションと急ブレーキによるスリップ音、そして「ドン」と鈍い大きな音が聞こえた。僕は近くの幹線道路で事故が起きたと思い直ぐに家を出て現場に向かった。

事故現場は自宅マンションから20メートルほど離れた片側2車線の道路で、歩道に白いベンツがハザードを付け停車し、その脇に2台の自転車が横転しており、歩道には数人が事故の様子を見守っていた。道路中央には一人の少年がうつ伏せに倒れ、その少年の傍には友人なのだろうか、震えた涙目の同年代の子が立っている。そして通りすがりの人だろうか、機転の利いた人が懐中電灯で後続車を誘導していた。
僕は急いで倒れている少年に駆け寄った。その少年は頭から血を流し口から大量の血を吐き胃の中にあった食べ物なのだろうか、血に染まったドロっとした得体の知れない物が口から出ている。少年は瀕死の状態だったが息はあった。近くで救急隊に電話している男性がいたので、僕はうつ伏せになった少年の呼吸が気になり、少年を仰向けにするべきか救急隊に聞くように彼に伝えると、彼は僕に電話を替わってくれと手で合図し、僕に電話を渡してきた。電話の向こうでは救急隊が僕に問いかけてくる。
「今、倒れている人はどんな状態ですか?」
「かなり吐血していて頭からも出血していますが呼吸はあります。彼は今うつ伏せなんですが、仰向けにした方が良いですか?」
「今、救急隊がそちらに向かっています。直ぐに到着できるようですので、そのままの状態で救急車を待ってください」
僕が救急隊と電話で話していると、その少年の呼吸はゆっくりと止まった。
僕は慌てて電話を戻し、少年を仰向けにして彼の胸に両手を当てた。そして僕の声が少年にしっかり聞こえるように大きな声で心臓マッサージを始めた。
「死ぬな!生きろ!生きろ!生きろ!!」

数分後、救急車より先にパトカーが現場に駆け付け数人の警官が下りて来た。若い警官が僕に「替わります」そう言ったので、僕は心臓マッサージを替わってもらった。そして間もなくして救急車が到着し救急隊員が心臓マッサージと輸血を始めたが、少年の呼吸は戻らない。救急隊はしばらく心臓マッサージを行い、手際良く少年をストレッチャーに乗せ救急車に搬入すると、サイレンを鳴らし救急病院へと走り出した。
僕は自宅に戻り名前も顔も知らない少年の無事を祈った。

翌朝、テレビのニュースで昨晩の事故は報道されず、ネットにも書き込みやニュースは無く、また事故現場に花が添えられていなかったので、少年は一命を取り留めたのだろうと僕は安堵した。
しかしその日の夕方、ニュースを見ていると昨晩の事故が報道された。その少年は中学3年生で友人と道路を自転車で横断中に跳ねられ意識不明の重体だったが、事故から13時間半後に死亡が確認されたと言う。僕は愕然とし、悲しみとやるせない気持ちで胸が一杯になった。懸命の心臓マッサージのリレーは少年に届かなかった。

2日後、事故現場の歩道には沢山の花が添えられていた。その少年の親を想うと胸が熱くなり虚しさが込み上げてきた。そしてその時僕はふと思った。
少年は事故現場で心肺は停止したが、その後、息を吹き返し13時間半は生きた。彼の意識は戻らなかったが、病院に駆け付けた両親や家族に今までのお礼と先立つ不孝を謝罪し、ちゃんとお別れの挨拶をしたのではないだろうか…。そう思うと気持ちが少し楽になった。

交通事故は回避することができる。交通事故は被害者と加害者、それにどちらの家族にとっても辛く悲しい。


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