昔、冬の雨の降る夜に近くの自販機へと出掛けた。後ろで何かの気配を感じ振り向くと、ずぶ濡れで寒さに震える子犬が、鼻を鳴らしながら僕に近寄ってきた。生まれて1ヶ月くらいだろうか。その場で少しの間、びしょ濡れの子犬の頭を撫で自宅に戻ろうとすると、その子犬は僕の後ろからトコトコとついてくる。子犬を手で追い返そうとしたが逃げる気配はなく、結局、玄関先までついてきた。
「腹が減って寒いちゃろ?」
僕は子犬に言葉を掛けた。
「ク~ン」
子犬はひどく汚れて寒そうだったので、風呂に入れ洗ってやった。風呂から上がりドライヤーで毛を乾かし暖かい牛乳を与え、暖かいコタツの中に放り込んだ。そこに当時、看護婦だった母が夜勤を終え帰ってきた。僕は母にコタツの中を指差し母が中を覗くと驚いていた。
「どうしたと?」
僕は母に事情を話した。
「どうするね。明日には、おったところに戻さんね」
母が言う。
「こげん寒い中、放り出せんやろ~」
「ばってん、お父さん飼わんて言うよ。あれでいて本人は動物好きやけどね」
「お袋が上手いごと親父に言ってよ」
翌朝、父が起きてきて牛乳を飲んでいる子犬を見て飛び上がった。
「何やこれ!?」
母が事情を説明したが、父は大反対。
「死んだら可愛そうやし、悲しいやろうが!誰が面倒見るとや?」
結局、父は母の説得に負け、その子犬はうちで引き取ることになった。子犬は雑種で長い白い毛で所々、黒の斑があるメス犬だった。彼女は「ヒュウ」と名付けられすくすくと育ち、かなり大きな成犬になった。ヒュウは恩返しだったのか、僕ら家族をたくさん楽しませ喜ばせてくれた。また僕や家族が悲しい時はいつも隣に寄り添ってくれた。そして彼女は僕ら家族に愛され命を全うした。
人の義理や情は本当に希薄で、人の多くの感情はいとも簡単に変化してしまう。だからこそ人は義理人情の物語に感動し憧れるのだろう。先日、ふと、真っ直ぐに生きたヒュウを思い出した。
ヒュウを飼っている間に、今度は妹が猫を拾ってきた。
父は呆れていた。
written by ダニエル